サインとは、人の名前を書いているもので、サインをする、と聞くと人気のスポーツ選手やタレント、作家などのサイン会を連想する人もいるでしょう。同じように自分の名前を書いたものが「花押」です。一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、茶道や華道などの家元、伝統芸能の世界や僧侶、政財界などでは現代でも使われているのですが、日常生活ではなかなか目に触れる機会がないでしょう。
花押は日本の伝統的なサインで、草書を土台に作られています。今、花押として見ることが出来るのは蜘蛛の網状や画のようなかたち、徳川家康の花押で代表される明朝体といわれる形体がありますが、花押の中で最も優雅にして華麗で独創的なものは、平安時代と安土桃山時代の花押に見られます。
自著から花押へ
奈良時代
奈良時代の自著は楷書体で、筆画の省略がありません。仏教の普及のために謹厳な写経が書かれました。
平安時代前期
三筆の時代です。自著は楷書体や行書体で書かれています。当時の最高の知識人たちが知識や知恵、技量を競い、王義之の書風を志しました。
平安時代中期・後期
三跡の時代です。花押の萌芽期ともいえます。初期の花押は草名体と呼ばれます。草書で書かれた自著が発達し、二字が結合されて一字のように工夫されています。後期には花押の発展期に入ります。上の3人の花押は二合体花押の初期で、偏と旁からなります。
花押の変遷
飛鳥時代 | 592年 | 推古天皇即位 十七条憲法 | |
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645年 | 大化改新(中大兄皇子) | ||
672年 | 壬申の乱(大海人皇子) | ||
奈良時代 | 710年 | 平城京遷都(元明天皇) | |
743年 | 墾田永年私財法(荘園の成立) | ||
平安時代 | 794年 | 平安京遷都(桓武天皇) | |
1017年 | 藤原道長太政大臣に | ||
1086年 | 白河上皇院政を開始 | ||
1179年 | 平氏政権(武家政権)樹立(平清盛) | ||
鎌倉時代 | 1185年 | 鎌倉幕府開設(源頼朝) | |
1221年 | 承久の乱 | ||
1232年 | 御成敗式目(北条泰時) | ||
1274年 | 文永の役 | ||
1333年 | 建武の新政(後醍醐天皇) | ||
室町時代 | 1336年 | 室町幕府開設(足利尊氏) | |
1392年 | 南北朝の統一(足利義満) | ||
1404年 | 日明貿易開始(足利義満) | ||
1476年 | 応仁の乱 | ||
安土桃山時代 | 1582年 | 本能寺の変(明智光秀) | |
1590年 | 天下統一(豊臣秀吉) | ||
1600年 | 関ヶ原の戦い(石田三成) | ||
江戸時代 | 1603年 | 江戸幕府開設(徳川家康) | |
1702年 | 赤穂事件(大石内蔵助・吉良上野介) | ||
1716年 | 享保の改革(徳川吉宗) | ||
1787年 | 寛政の改革(松代定信) | ||
1841年 | 天保の改革(水野忠邦) |
飛鳥時代・奈良時代
奈良時代の「東大寺献物帳」を見てみると、年号を記載し、行をかえてから「官位 官職 姓・名」の順に書いています。書体は謹厳な楷書体です。しかし「官位 官職 姓」と「名」は文字粒と字形が相当に違います。これは名だけは本人が書いているからでしょう。別に僧綱牒という、僧侶の自著を掲げました。僧侶には官職がなく、献物帳の用には書けません。それで、「大僧都」「小僧都」「律師」と書いて、その下に僧名を書いています。